冬の間、その深い香りで食卓を支えてくれた九条ネギ。
春の陽光を浴びて、畑では次々と「とう」が立ち、
愛らしい葱坊主たちがいっせいに顔を出し始めました。
今までは、この姿を見ると
「ああ、今年のネギもこれでおしまいだね」と、
どこか寂しい気持ちで眺めていたものでした。
けれど、ふと思ったのです。
この力強く上を向いている命を、このままにしておくのは、
あまりにも「もったいない」のではない、と。
そんな思いで、手折った葱坊主を手に取ってみる。
今までこんなにまじまじと観察したことはなかったけれど、
よく見れば、なんて愛らしい姿をしているのでしょう。
薄い膜を破って、小さな蕾がぎゅっと集まっているその造形は、
まさに春のエネルギーが凝縮された宝箱みたい!
「もったいない」は、ただ物を大切にするだけでなく、
素材に秘められた価値を、最後まで信じ切ること。
そう思って台所に持ち帰り、食材として向き合ってみることにしました。
天ぷらにして、そのほろ苦さを閉じ込める。
ペペロンチーノに散らして、春の刺激を愉しむ。
いざ味わってみると、葱坊主は「終わり」の合図などではなく、
今この瞬間にしか出会えない、贅沢な旬の「始まり」を教えてくれたのです。
魯山人の言葉の中に
「料理の要諦は、材料の持ち味を損なわないことにある」というような言葉を
残していた記憶が。凝った趣向はいらない。
ただ、そこにある素材の息吹を、素直に引き出すだけでいい。
おにぎりに忍ばせたり、お酒の隣にそっと置いたり。
手間をかけずとも、自然が育てた熱をそのままいただく。
それだけで、私の春はこんなにもウキウキするもんなんだなぁ…

今宵の一皿 Vol.4
葱坊主のネギ味噌
今夜の主役は、
葱坊主をたっぷりと使ったネギ味噌。
普通のネギよりもどこか力強く、
それでいて春らしい、
どこか青い香りが鼻を抜けていきます。
これを、少しずつ箸に取って酒の肴に。
意外な組み合わせですが、
クリームチーズと一緒に口に運ぶのもお気に入り。
発酵したもの同士、お互いの深みを引き立て合って、
ついつい日本酒が進んでしまいます。

